高知地方裁判所 昭和25年(行)53号 判決
原告 池添慶亀
被告 高知県知事
一、主 文
被告が昭和二十四年十二月二日付高知日章(か)第十八号買収令書によつて別紙目録記載の土地についてした買収処分はこれを取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、請求の原因として、別紙目録記載の本件土地は原告の所有であつて、孰れも民法施行の日即ち明治三十一年七月十六日以後に永小作権が設定せられたものであるが、日章村農地委員会は、これを昭和二十三年七月十五日現在において自作農創設特別措置法(以下自作法と称する)第三条第五項第五号所定の土地即ち民法施行法第四十七条に規定する永小作権の目的となつていた農地であると認定して買収計画を定めたので、原告は異議申立をしたが棄却されたので更に訴願をしたが、これ亦昭和二十五年六月十六日付棄却せられた。被告は右買収計画に基いて主文記載の買収令書を発行し、これを昭和二十五年十二月十三日原告に交付して買収処分をしたのであるが、右処分には次のような違法がある。
(一) 凡そ自作法による農地の買収処分は都道府県農地委員会の承認を受けた買収計画に基かなければならないのに、本件買収計画については高知県農地委員会の承認を受けていない。仮りに右承認を受けているとしても、その日時は前記訴願裁決のあつた時より前であるから、自作法第八条第九条の規定に違反するので、結局適法な承認を受けていないことになり、従つて、被告のした本件買収処分も亦違法である。
(二)(イ) 別紙目録記載の(イ)の土地については、吉本銀次郎が明治二十五年九月八日所有権の登記をし、明治三十三年五月二日に、明治三十二年三月一日末政丑太郎のために永小作権を設定した旨の登記をし、明治三十四年十一月五日原告の父池添国馬が売買により所有権を取得し、
(ロ) 同(ロ)の土地については、吉良周吾が明治三十三年七月十四日所有権の登記並に同年三月二十八日北岡柳馬のために永小作権を設定した旨の登記をし、明治三十四年四月一日原告の父が売買に因り所有権を取得し、
(ハ) 同(ハ)の土地については、原告の父が明治三十三年六月二十日所有権の登記をし、同年七月二十一日山本芳吾のために同年六月三日永小作権を設定した旨の登記をした。
そして、右各土地とも昭和十九年二月九日原告の父死亡による家督相続により原告の所有となつたのであるが、右に述べた如く、これに対する永小作権設定の日時は孰れも民法施行後である。
然るに、日章村農地委員会が右永小作権は民法施行前に設定せられたものであると言うのは、本件土地その他日章村の農地の契約書類には、「明治十五年協議契約に因り」「明治十五年設定を証する何年何月何日付永小作権設定証書により」「明治十五年より継続したる永小作権を明治何年何月何日設定証書により」などの文言を用いてあるのを見て、全部明治十五年は設定せられたものとするによるのであるが、この「明治十五年云々」の文言の出来た由来は、香美郡田村においては、小作米の上米に関して明治十一年から明治十三年迄三ケ年を費して、第一、二、三審と大審院の判決を受ける迄争い拔いた苦い経験に懲りて、明治十五年地主と小作人が円満協議を遂げ爾後再びかゝる争のないようにお互に納得できる条件を選定し、当時万人向きの条件を印刷した用紙を以つて契約書を作成したのである。その時から明治時代はもとより大正、昭和に至る迄同一の文言即ち明治十五年云々を使用し、これが登記簿に記載せられて現在に及んでいるのであつて、決して明治十五年に永小作権が設定せられたのではない。
仮りに、民法施行前から地主以外の者が本件土地を耕作していたとしても、それは賃貸借に因るものであり、永小作権によるものではない。
仮りに、前記永小作権が民法施行前に設定せられたとしても、その登記のなされた日時は、前述の如く、孰れも民法施行の時から一年以上を経過した後であるから、民法施行法第三十七条民法第百七十七条により、永小作権設定後に所有権を取得し且つ永小作権設定契約の当事者でもない原告に対しては、登記前の事実を以つて対抗することはできない。
よつて、日章村農地委員会が、本件土地を自作法第三条第五項第五号所定の農地であるとして、これについて買収計画を定めたのは違法であり、従つて、これに基いて被告のした本件買収処分も亦違法である。
以上の次第であるから右処分の取り消しを求めるため本訴に及んだのである、と述べた。(立証省略)
被告指定代理人は、請求棄却の判決を求め、答弁として原告の主張事実中本件土地が原告の所有であつたこと、原告主張の各行政処分のあつたこと、原告主張の異議訴願の各申立があつたこと、本件土地に永小作権の設定せられていること並原告主張の各登記のなされていることはこれを認める、その他の点はこれを争う。尚、被告の本件処分には何等の違法がない。即ち、
(一) 高知県農地委員会は本件訴願裁決のなされた時より前である昭和二十四年十二月一日に本件買収計画を承認したのであるが、それには、「後日若し原告の訴願について容認の裁決があつたときは効力を失う」旨の条件が付せられていたが、その後、右訴願は棄却せられたから、右承認は有効に存続しているから、その後になされた本件買収処分は適法な承認に基くものである。
(二) 本件永小作権は孰れも民法施行前に設定せられたものである、と述べた。(立証省略)
三、理 由
原告主張の各行政処分のなされたことは当事者間に争がない。先づ、本件買収処分が本件買収計画に対する高知県農地委員会の適法な承認に基いてなされたかどうかについて判断する。右計画に対する右委員会の承認が全然なかつたとの事実はこれを認めるべき証拠はないが、右承認が本件訴願棄却の裁決のなされる前になされたこと、そして、それが条件付でなされたことは、被告の自認するところである。そこで、右承認が適法であるかどうかについて案ずるに、凡そ買収計画に対する都道府県農地委員会の承認は訴願の裁決の後になされるべきことは、自作法第八条の規定するところであるから、本件承認はこれに違背する違法無効のものである。そして、仮りに、本件承認のなされた後において本件訴願棄却の裁決があつたとしても、これによつて右瑕疵は治癒される訳のものではない。加之、農地委員会の承認に条件を附することができる旨を定めた法規はなく、又、右承認は自由裁量行為でもない。
従つて条件付承認は承認としての効力はないと謂うべきである。果して右の如くであるならば、本件買収処分は結局高知県農地委員会の承認に基かないことに帰着するのであるから違法であり、この故を以つて取り消されるべきものである。
仍つて、他の争点についての判断を省略し、民事訴訟法第八十九条を適用して主文の如く判決する。
(裁判官 森本正 安芸修 谷本益繁)
(別紙目録省略)